とりあえず洗濯機に放り込め

サイズをあらわす「M」というシールを貼ったままのTシャツを着た男性(以下、「M」男)が、私の前の席の男と会話をしている。
私と、おそらく前の席の男も「M」のシールに気付いているはずで、私の顔は半笑いになっているのが自分でもよくわかるし、もしかしたら普段からそんな顔かも知れぬが前の席の男も半笑い的な口の開き方になっている。
私は「M」男と全く親交がないので「あのう、シールはったままですよ」と指摘してやる義理はないのだが、前の席の男は親しく話しているのであるから指摘してしかるべきであると思うが、全く声を出すそぶりを見せない。
「M」男はにこやかにここを立ち去り自席に戻った。
こんなとき私はどうすればよいのだ!いや、私が悩む必要はない、前の席の男が悩むべきだ。知り合いなのになぜ注意しない!
いやいやいや、その前に「M」男が悪い。
なんで店で買ってそのまま着てくるのだ!
そういえば昔あるバイトで一日だけ全員白のTシャツを着て来いということになって、私は買ったばかりのTシャツそそのまま着ていったのだが、みんなに笑われてしまった。「けけけけ、折り目のついたTシャツってどうよ!」
それ以来Tシャツに限らず、買った服や下着や靴下はまず洗濯することにしている。
いや待て私の経験などあまり関係なくて「M」男をどうすればよいのか。
名前どころか家も知らぬ男に注意してもよいのか、いや待て、前の席の男は知り合いなのになぜ注意しないのか!良心は痛まないのか。
思考がループ状態になってきたので、「M」男のことは忘れることにする。